「資産運用実践講座」のお気に入りパートは「投資理論はどのように商業利用されているか」

前回の記事でご紹介した「資産運用実践講座」(山崎元著)は資産運用全般について書かれた本ですが、その中でも個人的に、特にお気に入りのパートがあります。

それは、「投資理論はどのように商業利用されているか」というパート(P.84~90)です。
ざっくり言って、金融工学や行動ファイナンスといった投資理論が本来の目的とは違って、金融機関側に悪用されているという指摘です。
金融商品の条件を複雑にして実質的な手数料を分かりにくくしたり、顧客の心理的な傾向を利用して商品を売るための金融商品の開発などに利用されているという話なのですが、これが面白い。

利用されている理論・概念とその商業利用の例が取りあげられています。加えて、投資家のための利用例までフォローされているところが良心的です。
僕が知る限り、こういった切り口で投資理論が紹介されたものは他に見たことがありません。

その一部を、いくつか抜粋させてもらいたいと思います。

オプション価格理論

利用されている理論・概念:
オプション価格理論。オプション条件を評価する理論。ブラック=ショールズ式などが有名。オプション的条件と現金或いは固定利回りとの比較には複雑な計算を要するので“情報の非対称性”を作りやすい。

商業利用の例:
仕組み債、EB(他社転換権付き債券)、元本確保型投信、リスク限定型投信、仕組み預金などでは、条件の中に実質的な手数料を紛れ込ませている。実質的な手数料が数%になることも少なくない。

投資家のための利用例:
仕組み預金などの条件を計算して、損な商品を避ける。ヘッジファンドなどに使われる成功報酬を固定フィーベースに計算しなおして評価することもできる。


オーバーコンフィデンス

利用されている理論・概念:
オーバーコンフィデンス。自信過剰のこと。人間は自分の判断力の効果について自信過剰の傾向を持ち、これは男性、専門家において顕著。

商業利用の例:
良いアクティブファンド・マネージャーを事前に選ぶことができると信じさせて高い手数料のアクティブファンドを売る。投資家は、自分は良いファンドを選べると自信過剰に考えがち。

投資家のための利用例:
オーバーコンフィデンスに注意して、頼りない相場観や事前の商品評価力よりも、コストを重視して商品を選ぶ。


時間選好率の歪み

利用されている理論・概念:
時間選好率の歪み。報酬を早く受け取ることの時間的価値評価が直近重視に歪む傾向がある。例えば今日と明日のお金の価値の差は大きく感じるが、1年先と1年と1日先のお金の差はそうでもないと感じる。

商業利用の例:
毎月分配型投信。分配が頻繁にあることで、金銭的な報酬の刺激を頻繁に与える。顧客の側では、有効な運用をしているような気分になりやすいが、1年を通じて見ると損。実際には毎月分配型の形で現金が必要な人はほとんどいない。

投資家のための利用例:
金銭計画の重要性を再考し、時間選好率の歪みを克服する。普通預金を取り崩す方が、毎月分配型ファンドよりも手数料と期待リターン、リスクを考えると遙かに得な運用である。


プロスペクト理論②

利用されている理論・概念:
人は、例えば投資した株価のような「参照点」に過剰にこだわる傾向がある。

商業利用の例:
元本確保型投信、(元本)保証付き変額保険。元本確保に顧客の注意を引いて、思考停止させる。仕組み商品の「ニーズ」の多くは人の判断の歪みがもとになっている。

投資家のための利用例:
元本額だけにこだわるべきではない。コスト高の元本確保型商品に投資するよりも、投資金額を調整する方が遙かにシンプルかつ賢い。


他にもたくさんの事例が一覧表になっており必見です。
学術的な理論を解説した本はたくさんありますが、実際の資産運用において具体的に応用して分かりやすく解説することはなかなか難しい(ロジック的にも利害関係的にも)と思われます。
本書はそれをさらりとやってのけており痛快です。

そういう観点で、本書を読んでみるといっそう楽しめると思います。

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プロスペクト理論

効率的市場仮説で出てくる投資家たちは合理的であると言う前提ですが、行動ファイナンスでは投資家が合理的に行動するとは限らない前提で人間の心理を巧みに突いた理論とも言うべきですが(表現が難しい)、行動ファイナンスを知っておくと投資判断において変な投資行動に走る心配がなくなりそうです。
上記の毎月分配型もそうですし、プロスペクト理論もそうですしね。

金融工学ですが、理論通りにオプション料が決定され、コストが0で効率的と言う前提で有れば必ず、オプションを行使する側もされる側もフェアになりますし、もっと欲を言えば地震オプションと言った顧客の為に使う事が出来る分野です。
しかし、金融工学が世の為人の為に使われる事なく、サブプライムローンに応用されるなど、結局は何の為の金融なのかさっぱり分からなくなっています。
特に日本は地震リスクにさらされているので、この対策に政府が例えば地震オプションの市場を作るなど、金融工学の「世の為人の為計画」をやらないのでしょうか?
これはまさに阪神淡路大震災の教訓が生かされていないと断言します。
それどころか、投資家をまやかすような使い方しかやらないのならば、そんな学問は必要とはしません。
金融工学という投資家側にとってまやかしの理論よりも、昔からあるような古典的な投資でも十分にリターンを上げられるのならば、古典的であってもそちらの勉強をするだけでも効率的な市場では金融工学を打ち破る事は可能と考えています。
投資家は新しいもの好きですが、すぐに飽きるのも投資家です。
EB債や仕組み預金もその1つだったかも知れませんし、これから誕生する金融工学を駆使するデリバティブ商品も、最後は経済的合理性が無いと判断されて飽きられるのだと思います。

投資理論の悪用というのは悲しいことですが、金融機関も営利会社である以上、それが利益拡大のために有用だと思えば利用するのもわかります。
どうしても、個人投資家側がハメられないように注意しなくてはいけないということになると思います。
そういう意味では、金融機関側の「手口」を明らかにしてくれた本書は、個人投資家にとってありがたいと思います。

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