「リスクと期待リターンは過去のデータから計算できる」の嘘 (その1)

水瀬ケンイチ

インデックス投資に詳しいかたでも誤解している場合があることのひとつに、「リスクと期待リターンは過去のデータから計算できる」というものがあります。

何を隠そう、自分も昔はそう思っていました。
だって、自分が読んできた投資本の中に、そう書いてあるものが結構あったのですから。
例えば、橘玲氏の名著「臆病者のための株入門」にも、「過去の株価データさえあれば、個別銘柄のリスクとリターンは容易に計算できる」とさらりと書かれていました(誤解のないように補足しておくと、この本はその他の部分では素晴らしい名著です)。

しかし、いろいろ勉強していくうちに、リスクについては過去データからある程度推計できるが、期待リターンについては、過去データだけでなく別の理論値や投資家の判断がどうしても必要だということを知りました。

そもそも、期待リターンを求める方法に、唯一の正解があるわけではありません。
よく考えてみれば分かることですが、将来のリターンなどというとてもあやふやなものを一点予測するわけですから、簡単に求められるはずがありません。
(それに対して、リスクは「ブレ幅」というレンジなので予測しやすいのは道理です)

では、期待リターンの計算にはどんな方法があるのか?
この情報は、生半可な投資本には出ていません。もちろん、WEBにもなかなか正しい情報が出ていません。
代表的な期待リターンの計算方法は以下のとおりです。



(1)ビルディング・ブロック方式

資産のリターンをいくつかの構成要素に分解し、個々の要素について予測値を置き、それらの積み上げを行って将来のリターンを予測する推計方式をいう。
リターンを各資産に共通するベース部分(例:実質経済成長率やインフレ率)と資産間の安定的な収益率格差(リスク・プレミアム)などに分解することでリターンの構造を明らかにするため、経済的な意味付けがしやすい。
(出典:企業年金連合会WEBサイト

(2)長期的な利益成長率を一定とした理論株価モデル

益利回り(PERの逆数)と長期的な利益成長率の合計が株式の期待リターンとなる。
例えば、ある国の株式市場の平均PERが20倍なら、益利回りは5%になり、企業の利益成長率をその国の長期的な経済成長率(名目GDP成長率)並みとして仮に2%とすると、この国の株式の期待リターンは、5%+2%=7%と計算される。
(出典:資産運用実践講座Ⅰ 投資理論と運用計画編・山崎元著)

(3)年金基金や運用会社の公表データ

運用のプロ(であるはず)の年金基金や運用会社が独自の試算で公表している期待リターンをそのまま拝借、あるいは、それらの平均値を取るというもの。
簡単ですが、それなりに有効(であるはず)。


主な計算方法は以上の3点かと思われます。
もちろん、様々なシナリオを想定してもっと複雑に予測値を算出する方法はいくらでもあるとは思いますが、簡易的な計算方法は、これくらいではないでしょうか。

ネットや本を見ていると、よく使われているのが(3)の年金基金や運用会社の公表データを拝借方式です。
インデックス投資ブロガーの多くが、公的年金(GPIF)の期待リターンやリスクのデータを使って、アセットアロケーションを作っています。
とても便利で私も活用でしている、「アセットアロケーション計算ツール」(無料でWEB公開されています)も、年金基金や運用会社のデータを使っている場合が多いです(関連記事)。
ちなみに、投資セミナー等を拝見していると、ファイナンシャルプランナーたちも、年金基金や運用会社のデータ(あるいはそれらの平均値)を使っている場合が多いようです。

しかし、いずれの方法でも、リスクプレミアムや利益成長率を何%と置くかなど、投資家の予測や判断が入る余地(要するに鉛筆をなめる部分)があり、過去のデータを単純に平均するような形で自動計算できるものではありません。

「リスクと期待リターンは過去のデータから計算できる」という誤解から、「インデックス投資はすべてデータで計算できる科学的な投資法だ」と過信してしまい、後でこんなはずではなかったのに……という目に遭わないよう、自分が使っている期待リターンの数値は、どういうロジックで作られたものなのか、十分に気を付けたいところです。

次回は、なぜリスクの推計には過去データが使えて、期待リターンには使えないのか?という理由を、データで見てみようと思います。

(次回に続く)
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Posted by水瀬ケンイチ