「リスクと期待リターンは過去のデータから計算できる」の嘘 (その2)

水瀬ケンイチ

前回の記事、『「リスクと期待リターンは過去のデータから計算できる」の嘘 (その1)』の続きです。

なぜリスクの推計には過去データが使えて、期待リターンには使えないのか?という理由を、データで見てみようと思います。
ここに、ピッタリのレポートがあります。

ニッセイ基礎研究所 年金ストラテジー 2012年3月号
2012/03/01 平均法で予測する期待リターンとリスクって妥当なの?

詳しくは上記レポートをご覧いただきたいのですが、ちょっと手の込んだシミュレーションで、過去平均法による期待リターンとリスク(標準偏差)の推計が、どのくらい実際のリターンとリスクに当てはまるかを示しています。
このグラフを見てもらうのがいちばん分かりやすいと思います。

データ期間と推計精度(赤線:「真の分布」の期待収益率6%と標準偏差20%)
(ニッセイ基礎研究所 年金ストラテジー 2012年3月号より・クリックで拡大)



シミュレーション内容はこうです。

<ステップ1>
実験の推計対象となる収益率が従う「真の分布」〔期待リターン6%・リスク(標準偏差)20%〕を設定する。
<ステップ2>
その分布からランダムに収益率を発生させる。
<ステップ3>
発生した収益率を「過去の収益率」とみなす。
<ステップ4>
過去平均法を用いて、「過去の収益率」から期待リターンとリスク(標準偏差)を推計する。
<ステップ5>
推計結果と「真の分布」の期待リターン・リスク(標準偏差)との誤差を評価する。

ランダムに発生させるデータの数(年数)を5年分、10年分、20年分、100年分、1000年分と変えて、このシミュレーションを20回やり、その分布を示したのが上記のグラフです。

期待リターン、リスク(標準偏差)のいずれも、5年分の過去データで推定するとバラつきが大きく、1000年分の過去データで推定するとバラつきが小さくなっています。

ただし!

「真の分布」〔赤い線=期待リターン6%・リスク(標準偏差)20%〕からの誤差を20%以内(薄い水色の範囲内)に収めようとすると、必要な過去データの年数が、リスク(標準偏差)については、5年分程度で十分であるのに対して、期待リターンでは、1000年分ものデータ数が必要であると出ています。

※レポートにはありませんが、誤差を10%以内(濃い水色の範囲内)に収めようとすると、必要な過去データの年数が、リスク(標準偏差)については、10~20年分程度で十分であるのに対して、期待リターンでは、1000年分あってもまだ足りません。

実際にはたかだか100年か200年分くらいしかない株価指数等において、1000年分ものデータが必要というのは、「実質無理」ということです。
つまり、過去データから期待リターンを推計することはできないというわけです。

なんだか小難しいシミュレーションで数字をいじくりましたが、上記の結果は、『期待リターンはピンポイント予測だから難しいが、リスクは「ブレ幅」というレンジなので予測はしやすい』というごく当たり前のことを表しているに過ぎない、と考えると納得しやすいのではないでしょうか。

というわけで、よく言われる「リスクと期待リターンは過去のデータから計算できる」というのは、データで見てもやはり誤り。
正しくは、「リスクは過去データからある程度推計できるが、期待リターンは過去データだけでは推計できない」ということです。

では期待リターンはどのように推計すればいいのか?という疑問がわいたら、このシリーズ記事の「その1」に戻って見てください。答えが書いてあります。

(おわり)


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Posted by水瀬ケンイチ