「長期投資でリスクは縮小するか」論争はもうやめよう

水瀬ケンイチ

私が長年モヤモヤしていたことのひとつに、「長期投資でリスクは縮小するか」論争があります。

このブログのベースになっている、インデックス投資の名著「ウォール街のランダム・ウォーカー」のなかで筆者のバートン・マルキール氏は、「長期投資でリスクは縮小する」と主張しています。

一方、「ほったらかし投資術 インデックス運用実践ガイド」でも共著させていただいた山崎元氏は、「長期投資でリスクは拡大する」(更には、マルキール氏の主張は間違っている)と主張しています。

私は投資に関する基礎知識について、マルキール氏、山崎氏ともに、かなりの信頼を置いております。
その二人が、「長期投資でリスクは縮小するか」論争では、真っ向から異なる主張をしているのです。
それも、二人の主張をそれぞれの著書で読んでいると、どちらも正しいように見えました。根拠となるデータにも嘘があるようには見えませんでした。
なので、これには数年間、混乱しました。

しかし、他の著者の主張も含め、情報をきっちり整理していったところ、ようやく結論が分かりました。
「長期投資でリスクは縮小するか」論争の、驚くべき結論は、こうです。



「長期投資でリスクは縮小する」も正しいし、「長期投資でリスクは拡大する」も正しい。

(゚Д゚)ハァ?
という声が聞こえてきそうです。
無理もない。一見、矛盾していますから。
ではなぜ、正しいのに矛盾しているように見えるのか?

これを文章でうまく説明しようと、ここ2~3年、四苦八苦していたのですが、ごちゃごちゃ文章で書くよりも、まずはもこのグラフを見てもらうのがいいと思います。

「長期投資でリスクは縮小するか」論争のリスクの定義の違い
(「資産運用実践講座I 投資理論と運用計画編(山崎元著)」の図表に水瀬ケンイチ加筆・クリックで拡大)

上の図も下の図も、数十年に渡る日本株式の収益(リターン)を表すグラフです。

上の図(マルキール氏の主張)ではリスクが時間とともに縮小していくように見えますし、下の図(山崎元氏の主張)ではリスクが拡大しているように見えます。
しかし、どちらも同じ事象を表しているのです。
(正確には、期間が上は44年間、下は30年間と多少違うので、上の図は30年までを見ればよいです。傾向は変わりません)

この「リスク」という言葉がくせ者です。
上の図(マルキール氏の主張)ではリスクの定義が「収益率(年率)の変化する範囲」です。
下の図(山崎元氏の主張)ではリスクの定義が「運用資産額の変化する範囲」です。
どちらリスクの定義も、その意味で使われることはあり、間違ってはいません。

資産運用においては、リスクと言ったら、「収益率の変化の範囲」を年率の標準偏差で表すことが多いです。
例えば、「日本株式のリスクは15%で、日本債券のリスクは5%だ」なんて言い方をよくしますよね。
その意味では、上の図は時間とともにグラフの網掛け部分の幅が縮小しており、「長期投資でリスクは縮小する」は正しいと言えます。

一方、資産運用において、リスクを「運用資産額の変化する範囲」という意味で使うシーンは、個人的にはあまりお目にかかったことがありませんが、年率ではなく、○年後の標準偏差で表すことはあると思います。
例えば、「このポートフォリオの30年後の期待リターンは○%で、リスクは○%だ」という言い方はすると思います。その金額バージョンと思えばアリだと思います。
その意味では、下の図は時間とともにグラフの上ひげから下ひげまでの幅は拡大しており、「長期投資でリスクは拡大する」も正しいと言えます。

つまり!
「長期投資でリスクは縮小するか」論争は、無意味なのです。
リスクの前提条件が違うのですから。

最後に、私たち個人投資家は、この話をどう捉えればよいのでしょうか。

「長期投資するなら、率で見ると運用は安定してくる。ただ、金額で見ると振れ幅は大きくなるので、投資額には注意しなくちゃな」

これだけのことです。スッキリ!(・∀・)
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Posted by水瀬ケンイチ