私たちを「思考停止のアホールド」と罵った奴らは卑怯者か
水瀬ケンイチ

2~3年前、株式市場が低迷していた時、一時的なマイナスを抱えつつ信念を持ってバイ&ホールド戦略を続ける人に対して、「思考停止」「アホールド」と罵った方々がいます。株式市場が上昇している今、彼らはとても静かにしています。
彼らは卑怯者でしょうか?
卑怯だという面もあろうかと思いますが、彼らを「そら見たことか」と晒しあげようとは思いません。なぜなら、彼らと私たちは「評価スパン」が違うからです。
世の中には、株価が3%下がるだけで「暴落だ」と騒ぎ立てる人たちがいます。一方で、30%下がっても「まだ許容範囲内」と笑っている人たちもいます。第三者からすると、さぞかし奇妙に見えるでしょうが、べつに両者とも極端な変人というわけではありません。投資成果の評価スパンが違うだけです。
短期投資家は、評価スパンが短い。ごく短期的な勝負で勝ちを積み重ねることで、利益を出そうと動きます。勝ち負けがすぐに決まるルールの中で、投資成果を評価します。よく言えば「機敏」、悪く言えば「近視眼的」です。
一方、長期投資家は、評価スパンが長い。遠い将来(数十年後)に利益が出ているように動きます。勝負がつくのは数十年後なので、それまではプロセスに過ぎません。よく言えば「大局的」、悪く言えば「愚鈍」です。
こうして、評価スパンが違う投資家たちが、市場のある一局面に対して評価を下すと、冒頭のような意見の食い違いが起こります。そしてこれは当然というか必然です。
したがって、私たち長期投資家は、短期的な市場の上昇・下落局面で一喜一憂する必要はないし、短期投資家たちによる揶揄や手のひら返しを相手にする必要もありません。のんびり構えていればよいのです。
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ただし、世の中の情報の流れは、年を追うごとに早くなっていることに注意が必要です。かつては新聞やラジオで株価情報が流れてくる程度でしたが、今はネットによってリアルタイムかつボリュームをもって、私たちに押し寄せてきます。相場が上がっても下がっても、なぜか毎朝「おはぎゃあああ」というツイートを見ます。
世の中の流れが近視眼的になってきており、長期投資家がのんびり構えていようとしても、周囲の環境がそれを許してくれないことが増えている状況です。
そもそも、私を含む人間には、直近の出来事が印象に残ってしまい評価期間全体の評価が正しく行なわれないという共通の傾向(バイアス)があります。専門用語ではこれを「近接誤差」(Recency Bias)といいます。
私たち長期投資家は、投資成果についてあれこれ言われたり考えたりする時には、ある程度意志の力をもって、『自分の評価スパンはどれくらいだっけ?』と改めて自問することが、ますます大事になってきているのかもしれませんね。
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