「増資インサイダー事件後の規制改革」に見る証券業界の慢心

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近年、増資インサイダー取引が、日本の株式市場の信認を揺るがす深刻な問題となっています。

野村総合研究所 知的資産創造 2013年8月号
増資インサイダー事件後の規制改革

詳しくは上記レポートをご覧いただきたいと思いますが、このレポートは、増資インサイダー取引の問題の把握という意味で、非常によくまとまっており素晴らしいです。同時に、今後に向けた提言は、悲しいほど間違っています。

いったいどういうことか? 順を追って見てみましょう。

まず、増資インサイダー問題とは何だったか? という点についてです。熱しやすく冷めやすい日本人のことですから、大半のかたが忘れているのではないかと思いますが、これは日本の株式市場の信認を揺るがす深刻な問題です。

  1. 2009年から10年にかけて日本の上場企業による大型公募増資が相次いだ。そうしたなかで、公募増資の発表前後に空売りなどによる株価の大幅な下落が生じるケースが目立ち、増資インサイダー取引疑惑が取り沙汰されるようになった。
  2. この疑惑は、2012年3月以降、証券取引等監視委員会による摘発事案が相次いだことで、単なる疑惑から市場の信認を揺るがす深刻な不祥事へと発展した。再発防止策としての空売り規制の見直しや公募増資のあり方をめぐる検討も行われた。
  3. 2013年6月には、インサイダー情報の伝達や内部者等による投資推奨を禁じ、機関投資家等、「他人の計算」で取引を行う者のインサイダー取引に対する課徴金を引き上げる金融商品取引法の改正案が成立した。
  4. この改正は市場に対する信認の確保という面で一定の効果を発揮するものと期待されるが、中長期的には、形式主義的な日本のインサイダー取引規制の再検討も必要であろう。また、将来新たな事件が起きたとしても、いたずらに規制強化だけを求めないことが重要である

なるほど。さすが野村総研さん。よくまとまっています。

インサイダー取引の主犯であったと思われていた商品・サービスの提供企業そのものではなく、その周囲にうろうろしている取り巻きだった投資銀行や大手証券会社等の証券業界関係者が、インサイダー情報を利用して、濡れ手に粟の大儲けをする or 自分の顧客を大儲けさせていることが続々明るみに出ました。

しかも、その犯罪に対する刑罰が軽すぎる状況にあります。課徴金がたった数万円という事例もあり、そんなもの、アルバイトのポケットマネーでも十分払える程度のものではないかというふざけた話なのです。これが長らく続いてきました。

証券業界としては、この点については悪事をやり放題、むしろ、やらなければ経済合理的ではない状況であったと言っても過言ではないかもしれません。大手証券系列の会社が軒並み処分されましたが、これとて氷山の一角ではないかと言われています。

この件については、普段、個別企業の不祥事にはあまりとやかく言わないインデックス投資家である私も、非常に憤っていました。インデックス投資家は「市場の信認」というものに賭けている部分が大きいので、むしろ個別株投資家よりも憤りを感じているかもしれません。

一部の特権的立場の関係者が、インチキで大儲けするアンフェアな市場で、いったい誰が自分のリスクを負ってまで投資しようと思うでしょうか。下記ブログ記事は1年前のものですが、おおいに怒っております。

<関連記事>
2012/07/11 相次ぐインサイダー取引、日本の証券会社と金融庁は投資家をナメてんのか?

上記の野村総研レポートの1~3の項目では、それらの問題について、事例を交えて分かりやすくまとめられています。そして、対策として当然の帰結である「規制強化」についてもまとめられています。具体的には、金融商品取引法の改正で、以下の点です。

  • 情報伝達行為の禁止

  • 内部者等がインサイダー情報の公表前に、他人に利益を得させ、または損失を回避させる目的を
    もって、当該情報を伝達したり、売買推奨をしたりする行為が禁じられることとなった(金商法167条の2)。この規定に違反した者は、情報伝達や売買推奨を受けた者がインサイダー取引を行った場合にかぎり、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはその併科という罰則も設けられた(金商法197条の2第14号、15号)。また、情報受領者が得た利得相当額の50%という課徴金も賦課される(金商法175条の2第1項3号、2項3号 )。

  • 「他人の計算」による違反行為に対する課徴金の見直し

  • 他人の計算で資産運用を行う過程でインサイダー取引を行った場合の課徴金額を月間運用報酬相当額の3倍とすることが明確にされるとともに、風説の流布などその他の不公正取引類型についても同様の規定が設けられることになった(金商法175条1項3号ほか)。

  • その他の改正内容

  • ・インサイダー取引規制上の「公開買付者等関係者」に被買付企業およびその役職員が新たに加えられることになった(金商法167条1項5号)。
    ・未公表の公開買付等事実を知った者について、自らが公開買付けを行うために公開買付届出書を提出し、そこに未公表の公開買付等事実を伝達された旨を記載した場合や、情報を伝達されてから6カ月間が経過した場合には被買付企業の株式等の買付けが可能とされることになった(金商法167条5項8号、9号)。
    ・インサイダー情報を知っている者同士が市場外で行う相対取引(いわゆるクロクロ取引)にかかわるインサイダー取引規制の適用除外の対象が、内部者等から直接インサイダー情報を伝達された者(第一次情報受領者)と第一次情報受領者からさらに情報を伝達された者(第二次情報受領者)との間で行われる相対取引に拡大されることとなった(金商法166条6項7号)。
    ・従来インサイダー取引規制の適用対象とされていなかった上場不動産投資信託(J-REIT)にも規制が及ぶこととなった(金商法166条1項2号の2ほか)。

上記の細々とした規制強化項目を見ると、「なにもそこまでやらなくても……」と思われるかたもいらっしゃるかもしれません。

事実、上記の野村総研レポートの項目4では、

『この改正は市場に対する信認の確保という面で一定の効果を発揮するものと期待されるが、中長期的には、形式主義的な日本のインサイダー取引規制の再検討も必要であろう。また、将来新たな事件が起きたとしても、いたずらに規制強化だけを求めないことが重要である』

という締めくくりをしています。

私は上記野村総研レポートの1~3の事件の振り返りとその対策に関しては、よくまとまっており素晴らしいと思います。しかしながら、4の評価は間違っていると考えます。

なぜなら、「ダメな事象があるから規制された」という事実に対して、「規制強化だけを求めないことが重要である」という評価は、論理的に筋が通っていないからです。

ここで見られるのは、元々ダメな事象に対して、「だけ」という限定条件を付けることにより「極論化」してから、それをダメではないとする、よくある我田引水タイプの誤った論理展開です。これは、原因と結果ではなく、「当事者の願望」を表しているに過ぎません。

同じような論理展開は、金融・証券業界でよく見られますが、極論化してから否定するのは、結局なにも言っていないのと同じです。「過ぎたるは及ばざるが如し」です。
<関連記事>
2012/05/26 過ぎたるは及ばざるが如し

金融関係者であるレポート著者にとっては、今までと比較して厳しすぎる規制という「感覚」を持っているのかもしれませんが、客観的な事実として、EUおよび米国という諸外国のインサイダー取引に関する規制と、ようやく同程度になったに過ぎないということを、いみじくも、ご自身で書いたレポートが如実に証明しています。

欧州各国では、EU(欧州連合)の市場阻害行為(market abuse)指令(Directive 2003/6/EC)を受けて、各国で職務の適切な遂行として行う場合を除き、インサイダー情報を第三者に漏らす行為自体が禁じられているほか、証券会社等がインサイダー情報に基づいて取引推奨を行うことも禁じられている。

米国では、情報伝達者がインサイダー取引の共犯として処罰される可能性があるほか、証券取引委員会の公正開示規則(レギュレーションFD)によって、上場会社やその経営者が、インサイダー情報を証券会社のアナリストや機関投資家のファンドマネージャーに漏らす行為が禁じられている。


にもかかわらず、レポートの結びとして、

『今後、さらに規制の強化だけが進めば、正当な情報のやり取りや株式の取引もままならず、「君子危うきに近寄らず」とばかりに善良な市民は株式投資から遠ざかるような社会に行き着いてしまうのではないか、という懸念を抱かざるをえないのである』

などという、のんびりした寝言のようなことを書かれていることに、それこそ懸念を抱かざるをえません。今が、現在が、まさに、あなたが懸念している状況「そのもの」なのです。

証券業界内部にいる方々は理解できないかもしれませんが、このインチキが横行する日本の株式市場には、よほど欲の皮の突っ張った人間か、よほど物好きな人間以外、誰も寄りつこうとしません。この状況こそが、『「君子危うきに近寄らず」とばかりに善良な市民は株式投資から遠ざかるような社会』そのものなのです。

日本の家計の金融資産(不動産は含まない)は総額約1400兆円ですが、その5割以上が預貯金・現金で保有されています。世界の先進国では、預貯金は大体2~3割程度ですから、日本だけの預貯金比率が飛び抜けて高い比率です。

これは日本人の資質であるとする意見もありますが、家計における株式比率は、昔から低かったわけではありません。戦前は欧米並みにありました。現在の預貯金比率が高すぎる&株式比率が低すぎるのです。これは、戦後の証券業界の「慢心」あるいは「当然の報い」だと思います。

もちろん、金融業界の中には、素晴らしい取り組みをしている方々も多数いらっしゃると思います。そういう方々は、公私ともに応援しております。

しかしながら、そのことをマニアである私個人は知っていても、世の中のほとんどの一般人は知りません。皆一様に「怪しい世界」の住人にしか見えていないでしょう。投資ブロガーである私も、怪しい人にしか見えていないでしょう。テレビドラマの「半沢直樹」を見て、「ああ、やっぱり金融は汚い世界なんだな」と思うのが、ふつうの人の感覚です。

証券業界の方々には、投資が趣味でも仕事でもないふつうの日本人に、日本の株式市場は「信用されていない」ということを胸に刻んでほしい。そのうえで、今後どうすればよいかを真剣に、かつ客観的に、考えていただきたいと思います。

金融にかぎらず、「業界の常識、世間の非常識」ということは、よくあることですから。


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