投資家意識調査の分析レポートからにじみ出る金融機関の意図
水瀬ケンイチ

モーニングスターとシュローダーが共同で実施した「第2回投資家意識調査」の調査結果が公開されています。
モーニングスターの分析レポートによると、投資経験が浅い投資家について、「4割以上が自身のポートフォリオに不満」「長期・分散の意識は不十分」とのこと。
初心者が、投資目的は「中・長期の資産形成」と言いながら実際の投資は短期志向など、ちぐはぐな回答をしているところは、自分も感じていたことなので、さもありなんという印象です。
一方で、モーニングスターの分析にも「ううん?」と感じる部分があります。それは、「経済情勢や市場環境の変化に応じて、投資先の変更や資産配分の調整を行っているか?」という設問に対する分析部分です。引用します。
ジュニア投資家は「どうしていいかわからないため行っていない」が約4割を占めた。ベテラン投資家の5割以上が「自分の判断で調整を行っている」が、25%は「どうしていいかわからないため、調整を行っていない」と回答し、投資経験にかかわらず環境変化に応じた資産配分の調整は難しいという意識が強いことがわかった。
投資経験が浅い投資家の4割以上が自身のポートフォリオに不満、「長期」「分散」の意識は不十分/ファンドニュース/(投資信託ニュース)モーニングスターより
そもそも、「環境変化に応じた資産配分の調整」が「必要」であるという前提を暗に置いているように私には見えます。それを自分でできる人とできない人、どうしていいかわからない人や難しいと思っている人がこれだけいますよ、というまとめ方です。
(ちなみに、分析はそのあと、「『資産配分おまかせ型ファンド』に関心があるか」という設問に移行し、投資家の関心が高いというストーリーで進みます)
そこには、「環境変化に応じた資産配分の調整」は「不要」、という考え方もあることがすっぽり抜け落ちています。
モーニングスター自身が度々とりあげているように、運用成果(正確にはリターンの時系列変動)の9割は資産配分(アセットアロケーション)で決まるという研究結果が、洋の東西を問わず何度も出ています。それは裏を返せば、投資タイミングや銘柄選定の影響力は1割程度しかないということでもあります。
くだんの分析に戻ると、「経済情勢や市場環境の変化に応じて、投資先の変更や資産配分の調整を行っているか?」という設問に対して、「できる」or「できない」の分析ではなく、「不要だからやらない」という選択肢にもっと注目すべきだと思います。
実際、モーニングスターの分析レポートではなく、調査結果の原典(シュローダーのサイトにありました)にあたってみたところ、「必要性がないと考えるため、特に調整を⾏っていない」という選択肢がしっかりとありました。
そして、初心者の15%、ベテランの17%がここに回答しているのです。(私もここに回答するでしょう)
もちろん、前出の研究結果でも「環境変化に応じた資産配分の調整」が絶対に不可能であるとか、まったく意味がないとまで言っているわけではないですし、信じられない(信じたくない)投資家も多かろうと思います。
ただ、「環境変化に応じた資産配分の調整」が必要であるいう前提を疑って分析レポートを読んでみると、その直後に続く「『資産配分おまかせ型ファンド』に関心があるか」という設問に、誘導尋問ではないですが、なんらかの意図を感じてしまうのです。
言うまでもなく、「資産配分おまかせ型ファンド」には、最近、金融業界が絶賛売出し中のロボ・アドバイザーやラップ口座のサービスが含まれます。
金融機関 「環境変化に応じた資産配分の調整は、誰にとっても難しいですよね?」
金融機関 「資産配分おまかせ型ファンドっていうのがあるんですが、関心あります?」
金融機関 「そんなアナタに、おまかせで資産配分を調整してくれるロボ・アドバイザー○○はいかがでしょうか!」
という三段ストーリーが見え隠れしています。
深読みし過ぎかもしれませんが、金融機関が主体的に行なっている意識調査です。暗に置かれている前提を疑ってものごとを見てみると、また違ったものが見えてくることもあります。何かのご参考になれば幸いです。
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