投資信託のベンチマークは「運用のモノサシ」というのは言い得て妙。配当込みか配当抜きかはけっこう大事

水瀬ケンイチ

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日経電子版に「投信の評価『配当込み』へ 運用のモノサシ 見直し機運」という記事が掲載されています。

もともと、投資信託の運用のベンチマークとなる指数(インデックス)には、配当込みと配当抜きの両方があります。しかし、今まで日本では伝統的に「配当抜き」がベンチマークに採用されている投資信託が多く、上記日経電子版の記事では、その問題点をあぶり出しています。



投信の評価「配当込み」へ

三菱UFJ国際投信は7月以降、株式などのインデックス(指数連動)型投資信託約110本のベンチマーク(運用の指標)を、配当抜きの指数から配当を含む指数にすべて切り替える。投信の成績評価の在り方が見直さ


上記記事から、配当抜き指数をベンチマークにすることによる問題点をまとめると、以下のとおりとなるかと思います。
  • 10年間で、日経平均の配当抜きの指数は2.5倍になったが、配当込みの指数は3倍に上昇。株式を持っていれば配当が入るので、日本株の長期保有の損益は配当込みで判断すべき
  • アクティブ型のベンチマークも配当抜きが使われがち。それに比べて投信の運用成績が相対的に良いと誤認する投資家も多い
  • ある外資系運用会社幹部は「ベンチマークを配当込み指数に変えると、これまで指数を上回っていた投信の成績が一転して下回る結果になるケースもあり難しい」と本音(水瀬注:運用会社の運用能力が低いという実態が覆い隠されているのは投資家にとって問題)
  • そもそもベンチマークの指数は配当抜きか込みかの表示すら不明なことが多い

ここで指摘されている配当抜き指数をベンチマークにすることの問題点は、すべてもっともなことだと考えます。

というよりも、私が当ブログで昔から主張してきた内容と、完全に合致します。

新シリーズ!「低コストインデックスファンド徹底比較」開始。まずは説明書き

ここ数年でインデックスファンドの低コスト化が進み、インデックス個人投資家にとって、どれを選んだらよいかうれしい悩みをかかえるようなよい投資環境になってきました。その一方で、断片的で誤った比較情報も散見されるようになりました。そこで、新たに「主要な低コストインデックスファンド徹底比較」として、信託報酬、実質コスト、ベンチマークとの差異、実績リターンという複合的な観点で、インデックスファンドを比較して...



上記ブログ記事のとおり、当ブログの目玉記事シリーズであるインデックスファンド徹底比較の「比較項目」を刷新した時、私が抱いていた問題意識がまさにこれです。

インデックスファンドを比較するのに何を見ればよいか。当初は信託報酬と実質コストだけで比較していたのですが、同じインデックス投資家の間でも(しかも中級以上の詳しい人たちの間で)意見がバラバラだったのです。
  • 「信託報酬」で比較するのが適切
  • 隠れコストも加えた「実質コスト」で比較するのが適切
  • 「純資産残高」で比較する必要もある
  • 「ベンチマークとの差」に運用巧拙が出るのでこれを比較するのが適切
  • 「リターン実績」が最終成果なのでこれで比較するのが適切

たくさんの評価軸がある上に、ベンチマークの配当含む/除くの曖昧さが問題をさらにややこしくしていました。「ベンチマークから上ブレしても儲かればなんでもいい」「投資に潔癖である必要ない」などという「精神論」まで飛び出し、収拾がつかない状態でした。

当時のブログ記事の中で、このように述べています。(自分の記事の引用なので、多めの引用をお許しください)

これでいいのか日本のインデックスファンド情報


当ブログでは、インデックスファンドの「信託報酬」と、いわゆる“隠れコスト”を加味した「実質コスト」を計算して公開することは以前から行っていました。

今回からは、新しい試みとして、ベンチマークとなるインデックスについて、「配当込み」インデックスと「配当除く」インデックスを明確に分けて、比較することにしました。

今まで、日本の投信慣習だかなんだか分かりませんが、公開情報では、インデックスファンドのベンチマークが、配当を含むのか、もしくは除くのかについて、曖昧なまま表記することがまかり通ってきました。

言うまでもなく、株式インデックスファンドの原資産である株式は、実際には企業から配当が支払われます。なのに、インデックスファンドのベンチマークが「配当除く」インデックス連動だと、どうなるか。

ダラダラと非効率な運用をしていても、昨今は配当利回りが2~3%かそれ以上ありますので、その分お金が余るわけです。そうです、ベンチマークが「配当除く」インデックスのインデックスファンドは、黙っていてもベンチマークから上ブレるものなのです。

信託報酬等の運用コストがべらぼうに高かった10年以上前は、インデックスファンドの比較において、ベンチマークの配当含む/除くをあまり気にしないでもよかったのかもしれません。

しかし、インデックスファンドのコスト競争が進み、更に低コストなETFも登場して、インデックス投資家たちのコスト意識も高くなってきた環境下においては、配当をベンチマークに含むのか除くのかが曖昧なままでは、もはやインデックスファンドやETFを正しく比較・評価できない状況になりました。なので、「配当込み」インデックスと「配当除く」インデックスを明確に分けて、比較することにしました。


インデックス投資家さんも、インデックスファンドの本分を忘れちゃいないか


さらに、「インデックスとの差異」を併記しました。

そもそもインデックスファンドは、「ベンチマークであるインデックスに連動すること」を目的とした商品です。「ベンチマークを上回ることを目指す」のは、アクティブファンドの運用です。

にもかかわらず、ある一定期間でインデックスファンド・ETFをリターンが大きい順にランキングして、いちばんリターンが高いものを、良い商品として評価するインデックス投資家さんが散見されるようになっています。たとえ、ベンチマークとの差異が大きかったとしても。それってどうなんでしょうか。

この話をするとよくいただく、「儲けるために投資しているんだから、投資家として儲かっているファンドを選ぶのは当然だろ!」という趣旨のご意見は、ある意味では至極まっとうなご意見です。

しかしながら、インデックスを上回ることを目指すのであれば、そもそもインデックスファンドではなく、アクティブファンドを選択するのが理にかなっています。

「インデックスとの差異」が大きなインデックスファンド・ETFは、たとえリターンが一時的に良くても、それはインデックスで想定されているリスクよりも、実は大きなリスクを取っている可能性があります。ベンチマークよりも上ブレするインデックスファンドは、同じ程度下ブレする可能性もありえるので、避けるべきものだと私は考えています。

ベンチマークについて、「配当込み」インデックスと「配当除く」インデックスを明確に分けることにより、「インデックスとの差異」を同じカテゴリーのなかで比較しやすくなりました。

新シリーズ!「低コストインデックスファンド徹底比較」開始。まずは説明書き - 梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)より)



要するに、株式に投資する投資信託は、実際には保有している企業の株式から配当を得るのだから、それを得る前提での運用実績(配当込み指数との比較)で評価されるべきだということです。

個人投資家側も、インデックスファンドという「ベンチマークであるインデックスに連動すること」を目的とした商品に投資しながら、「儲かりさえすればなんでもいい」と思考停止して、インデックスファンドでもベンチマークからの上振れ大歓迎で評価する(でも、リターンを他のインデックスファンドと横並びに比較するとべつに高いわけではない)というのは、何かが間違っています。

インデックスファンドなのに「ベンチマークからの上振れ大歓迎」のようなねじ曲がった評価があると、再現性を含めた運用の良し悪しの評価が難しくなってしまいます。意見が割れるのです。

アクティブファンドの評価もねじ曲がっています。

配当抜き指数との比較という「ゲタ」をはいた状態で、年2~3%の配当をしっかりと懐に入れた基準価額が「ベンチマークを上回りました」と言われても、「そのゲタを脱いで同じことを言えるの?」と私なら突き返したくなります。

でも、配当込み指数と配当抜き指数の区別がつかない大半の個人投資家にとっては、「ベンチマークを上回った」ということは嘘ではないので、「インデックスを上回るよいアクティブファンドだ!」と誤認してしまいます。

また、インデックスファンドの比較記事を書こうとして、各インデックスファンドの目論見書や運用報告書を見ても、ベンチマークのインデックスが「TOPIX」「MSCIコクサイ・インデックス」とだけしか書いておらず、配当込みなのか抜きなのかが判然としないファンドばかりでした。

仕方がないので、運用報告書の「ベンチマークとの差異」項目の要因分析の記述を確認して、「配当要因で上回った」とあれば、おそらく配当抜き指数がベンチマークなのだろうなと推測してデータをまとめていき、それでもわからなければ運用会社に直接電話して確認していきました。

非常に手間がかかり、面倒くさいし、これが個人投資家の仕事なのか? 本来は運用会社や投信評価会社の仕事なのでは? と思っていました。(まあ、好きでやっているので直接文句は言いませんが…)

やがて、だんだんとインデックスファンド間の競争が激しくなり、コスト値下げ競争が進む中で、新規設定されるインデックスファンドでは、はじめから配当込み指数をベンチマークとする商品が増えてきました。

また、「今後はベンチマークの指数の配当込み/抜き」を明記するという方針を掲げた運用会社も現れはじめました。

そこへきて、冒頭の日経電子版の記事にもあった三菱UFJ国際投信の、インデックスファンド110本のベンチマークを配当抜きの指数から配当込み指数にすべて切り替えるという発表です。これには本当に驚きました

そんなことができるのか! 三菱UFJ国際投信、「eMAXIS」「eMAXIS Slim」「つみたてんとう」シリーズ等のインデックスファンドのベンチマークを「配当込み指数」へ変更

(三菱UFJ国際投信 WEBサイトより)三菱UFJ国際投信は、「eMAXIS」「eMAXIS Slim」「つみたてんとう」シリーズ等のインデックスファンドのベンチマークを「配当込み指数」へ変更すると発表しました。これは英断!!...



投資信託のベンチマークが「運用のモノサシ」というのは言い得て妙です。モノサシが間違っていれば、正しく長さや距離を測ることができません。投資信託でいえば、よい商品を選ぶことができません。

金融機関にとって都合がよいモノサシではなく、ユーザーである私たち投資家が商品を理解するのにわかりやすいモノサシであってほしいと切に願います。

ベンチマークの指数が配当込みなのか配当抜きなのかは、けっこう大事なことだと思います。

「何を細かいことを」と思われるかも知れません。でも、投資信託は過去の悲しい黒歴史もあって、世間一般から見れば全面的に信用されているとは言いがたい金融商品です。

小さなことから一歩、一歩、改善してほしいと思います。


<ご参考>
当ブログの主要コンテンツのひとつである「インデックスファンド徹底比較」カテゴリです。定期的にアップデートしています。
低コストインデックスファンド徹底比較
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Posted by水瀬ケンイチ