「年金2000万円不足問題」のばかばかしさ

水瀬ケンイチ

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金融庁の金融審議会がまとめた報告書「高齢社会における資産形成・管理」がきっかけとなって、連日とりざたされている「年金2000万円不足問題」。

老後の生活費と年金の差分だけにクローズアップして「政府が年金の限界を認めた」と年金叩きに大騒ぎのマスコミ、それに乗じて「裏切られた」とヒステリックに煽り立てる無責任コメンテーターたち、さらには、ここぞとばかりに年金を「政争の具」にして国会の貴重な時間をムダ使いする政治家たち。

すべてがばかばかしすぎて、いったん距離をおいてスルーしてきました。

ここへきて、少し時間が経って興奮がおさまってきたのか、読んでなかった報告書を読んでみて「あれ?これのどこが問題なんだっけ」と気づいたのか、ようやくまともで建設的な意見がちらほらと出てくるようになりました。

そこで、当初、報告書の目次の1~4と付属資料を順番にまとめて、マスコミの主張との食い違いを明らかにしていこう思いました。



ところが、この土日でブログ記事を書き進めていたところ、テレビや国会で騒がれているのが恣意的に切りとられたごく一部分過ぎて(老後の生活費と年金の差分だけ)、報告書全体の趣旨(高齢社会における資産形成・管理)とつながらず、まとめるのがばかばかしくなってきたのでやめました。

報告書は、少子高齢化・長寿化に対応して資産寿命を伸ばす必要があることを、直近の日本の統計データや諸外国との比較、調査結果などを使って説明し、個人が現役期・リタイア期前後・高齢期にそれぞれどんな対応をすればよいのかを提案しています。

また、この報告書は金融庁から金融機関へのメッセージでもあり、顧客本位のサービスとコストで、今後大変な顧客をサポート(認知・判断能力低下への対応含め)するべきだとも主張しています。

個人も、標準的モデルがなくなってきたなか、各人が置かれた状況やライフプランに合わせて、何ができるか、なにをすべきかを「自分ごと」として考える必要があり、金融機関はこれに寄り添いながら顧客の信頼を勝ち得ていこう、と主張しています。

いずれも至極当然の話であり、これを豊富なデータと事例で丁寧に説明している良い資料だと感じました。

夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300万円~2,000 万円になる。この金額は あくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。当然不足しない場合もありうる

(「高齢社会における資産形成・管理」(金融審議会)より)


上記の部分を切り取り、朝日新聞が「年金2,000万円不足」「政府が年金の限界を認めた」と歪曲報道した(と言って差し支えないと思います)ことがきっかけになり、世の中でマスコミ・政治など各所で「けしからん」「騙された」といわゆる「炎上」状態になってしまったようです。

年金だけでは老後にお金が不足することなど当たり前であり、だからみんな老後資金として貯金をしていたり、退職金の扱いを慎重に考えているのだと思います。

個人的な話をすれば、私は20年近く前にそれに気づいたから、投資を始めたようなものです。(私が投資を始めたのは、病院勤務の友人に「老人ホームに入るのにいくらかかると思う?」というクイズを出されたことなのですが、このあたりのくだりについては、山崎元氏との共著「全面改訂 ほったらかし投資術」の18~19ページに書いています)

国民年金だけだと年間70万円程度にしかならず、国民年金だけで暮らすのは難しいのはずっと昔からそうです。厚生年金にも加入していれば、会社と社員の2馬力で掛け金を拠出していくのでずっと良くなりますが、それでも豊かな暮らしができるほどもらえるわけではない。

これらは新たに発覚した秘密でも何でもありません。豊かな暮らしがしたいなら、自分で資産形成する。当たり前の話です。

金融審議会の報告書には、何もおかしなことは書かれていない。データによる現状認識と今後に向けた常識的な提言が書かれているだけです。特に、金融機関には、暗に「大変な状況にある個人を、昔みたいに手数料稼ぎの食い物にするなよ」とクギを刺していて、個人からするとありがたい話ですらあります。

テレビのコメンテーターは、いったい何を馬鹿騒ぎしているのか理解に苦しみます。

私にとって今回の馬鹿騒ぎが唯一役に立った点は、以前からやろうと思いながらもつい先延ばししていた日本年金機構「ねんきんネット」の登録をするキッカケになったことです。


ねんきんネット|日本年金機構

「ねんきんネット」はこれまでの年金記録や、将来受け取る年金の見込額などご自身の年金に関する情報をパソコンやスマートフォンから、いつでもどこでも確認できるサービスです


実際に拠出してきた掛け金をもとに年金見込額の試算ができるというもの。郵送されてくる「ねんきん定期便」でも見ていましたが、「ねんきんネット」では、サラリーマンから個人事業主になったり早めにリタイアした場合などの年金見込額を、いろいろ詳細にシミュレーションできます。

まだ登録されていない方がおられましたら、これは早いうちに登録することをおすすめします。

年金というのは将来どのくらいの金額が払われるものなのか。年金見込額のレベル感を知っていれば、たとえ、マクロ経済スライドで金額が減ったとしても、年金だけでは暮らせないだの、裏切られただの大騒ぎすることもないでしょう。

もし、足りない、もっと良い暮らしがしたいと思ったのなら、がんばって稼ぐか、節約して貯めるか、投資で増やすか、すればいい。

公的年金について、きちんと知りたいのであれば、まずは大もとである「日本年金機構」のWEBサイトに当たるべきです。詳しい情報が出ています。

ただ、ちょっと難しく書かれている面もあるので、その場合には、以下の書籍がおすすめです。今まで読んだ年金本のなかでダントツに良かったです。公的年金を徹底的に調べ上げて至れり尽くせりで解説してくれていて、たいへん勉強になりました。

年金についてネガティブな方向にばかり張り切る新聞社・テレビ局の方々も、ぜひ一度読んでみてください。


「人生100年時代の年金戦略」(田村正之著)は公的年金を徹底的に調べ上げて至れり尽くせりで解説してくれる「ザ・年金本」

「人生100年時代の年金戦略」(田村正之著)を読みました。本書は日本経済新聞社編集委員兼紙面解説委員で、ファイナンシャル・プランナー(CFP®)でもある田村正之氏が、公的年金を徹底的に調べ上げて至れり尽くせりで解説してくれる「ザ・年金本」でした。私自身、初めて知ることがたくさんあり、手元に置いておきたい一冊となりました。...



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Posted by水瀬ケンイチ