コロナショックを受けた公的年金の運用実績報告、マスコミ各社の取り上げ方に雲泥の差

水瀬ケンイチ

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先日、公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法)が、2019年度の年金積立金の運用状況報告を公開しました。

2019年度の運用状況|年金積立金管理運用独立行政法人

年金積立金管理運用独立行政法人のWebサイトです。GPIFの2019年度の運用状況を掲載しています。



◆2019年度(2019年4月~2020年3月)
収益率: -5.20%
収益額: -8兆2,831億円
運用資産額: 150兆6,332億円

◆市場運用開始以降(2001年度~2019年度)
収益率: +2.58%(年率)
収益額: +57.5兆円(累積)

簡単にいえば、2019年度は収益額で-8兆円とマイナスになってしまったものの、運用資産額は150兆円と巨額であり、収益率でいうと-5.2%で、株や債券に投資していればよくあるレベルの下落に過ぎず、市場運用開始以降からの累積収益額は+57兆円もあり、収益率も年率+2.6%とプラスで推移しているというのが全体像です。

収益額がマイナス時の恒例のマスコミ各社による「年金叩き」具合はどうでしょうか。調べてみました。



今までブログで取り上げてきたように、マスコミ各社は年金運用がマイナスになった時は、その損失金額を取り上げて鬼の首を取ったように「年金で●●兆円の損失!」と大騒ぎする一方、プラスの時には報道しない(あるいはごく小さな扱い)という傾向がありました。

2020年3月に「コロナショック」があり、ややマイナスになった2019年度の運用実績、マスコミ各社の反応はどうだったのでしょうか? ネット報道内容をチェックしたいと思います。

報道内容のチェック項目は過去のブログ記事と同様、(1)収益額、(2)収益率、(3)運用開始からの累計実績、とします。

公的年金の運用実績(2019年度)に対するマスコミ各社のネット報道状況

 
  収益額 収益率 累計実績 備考
日本経済新聞 ×  
ロイター ×  
ブルームバーグ ×  
朝日新聞  
毎日新聞  
読売新聞 × 読者は単年度評価不能
産経新聞 × × × 報道なし
共同通信 × × 読者は評価不能
時事通信  
NHK  
日本テレビ × × 読者は評価不能
TBS × 読者は単年度評価不能 
フジテレビ × 読者は単年度評価不能
テレビ朝日 × 収益率の表記はないが、運用資産額の表記あり。読者が自分で計算しないと評価不能
テレビ東京 × × 読者は評価不能
(ヤフーニュース、各社ニュースサイトより梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー作成。2020/07/04 12:00時点)

まず、報道自体がなかった産経新聞は論外として、その他のマスメディアでは取り上げられていますが、その内容には雲泥の差がありました。

読売新聞、共同通信、日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ東京は、記事にマイナス8兆円という「収益額」しか書かれておらず、「収益率」が書かれていません。これでは読者が運用実績を正しく評価することができません。

これは、過去に収益率がわずか数%のマイナスであったにもかかわらず、「年金で●●兆円の損失!」と金額の大きさのみを前面に出して騒ぎ立てた時と同じ構図です。

たしかに、8兆円という金額だけ見れば小さくはないです。というか、とてつもない大金です。

しかし、同じ8兆円のマイナスでも、運用資産額10兆円のマイナス8兆円(収益率-80%)と、運用資産額100兆円のマイナス8兆円(収益率-8%)では運用実績の出来、不出来の評価がまったく違ってきます。

公的年金は運用総額が150兆円と巨額なので、マイナス8兆円でも収益率は年間で-5.2%で、ぜんぜん想定の範囲内で、むしろ株式や債券に投資しているにしては値動きは「小さい」方です。

それなのに、8兆円というマイナス金額だけを示すのは、読者の「運用に失敗してるじゃないか!」「もう株で運用するな!」というミスリードを誘います。

特にひどいのは、共同通信です。

19年度の年金運用は8.2兆円超の赤字

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は3日、2019年度の運用実績が8兆2831億円の赤字だったと発表した。新型コロナウイルス感染拡大による世界的な株安が響き、過去2番目の損失額となった。

19年度の年金運用は8.2兆円超の赤字 | 共同通信より)

これだけです。損失額だけしか書かれておらず、運用資産額も収益率も累積実績も何も書いていません。そのくせ、「過去2番目の損失額」などと公式発表にはない余計な「煽り」情報だけは付け加えています。

年金運用を叩きたいだけの、お粗末な不適切報道だと私は思います。

始末が悪い事に、共同通信は全国の地方新聞社など加盟社への記事配信業務を行っています。このお粗末な不適切報道を、そのまま流している地方紙も確認できました(佐賀新聞、岩手日報など)。共同通信の悪影響と言ってよいと思います。

そんななか、朝日新聞、毎日新聞、時事通信、NHKは、(1)収益額・(2)収益率・(3)累計実績の3点セットがすべて書かれていました。

いくら損した(儲かった)のか? それは全体に対してどの程度なのか? 過去からの分を全部ひっくるめるとどうなのか? という年金運用実績の全体像が評価できる、読者にとってわかりやすい報道になっていました。


マスコミ各社の報道全体を通しての所感です。

前述のとおり、公的年金は運用総額が150兆円と巨額なので、損失の金額だけを示すのはミスリードを誘います。民法テレビ局を中心に、読者が実績を評価できないお粗末な不適切報道がまだまだ続いています。

某テレビ局では過剰演出で出演者に自殺者を出すなど、近年のテレビ局はセンセーショナルなものを求めて悪い方向に流れている気がします。

一方で、公的年金の運用でお粗末な不適切報道を垂れ流すメディアの数は、以前よりも減ってきたと感じました。毎日新聞や時事通信は、昔はお粗末な不適切報道でしたが、近年はだいぶまともな内容に改善されてきたように思います。(まあ時期にもよりますが)

公的年金に関しては、人口増加を前提とした制度設計であることや、未納問題、過去には消えた年金問題、マクロスライド方式未実施等、多くの問題を抱えていることは事実です。

しかし一方で、年金積立金の運用については真面目に行われており、情報公開も進んでいるというのが、運用をウォッチしている私の認識です。これらの公開情報は、個人投資家の資産運用にも大いに参考になるものです。

年金は国民の最大級の関心事のひとつです。マスコミ各社は煽る方向ばかりに張り切るのではなく、良いことも悪いことも含め、きちんと「事実」を伝えてほしいと思います。


P.S
本文にも書いたとおり、ネットで公開されている範囲での情報収集なので、「ニュースサイトには掲載していないが、新聞本紙では掲載している」「○時○分のTVニュースで触れた」等の事情はあるかもしれません。だからといってネットニュースは非掲載でよいということにはなりませんが。

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Posted by水瀬ケンイチ