公的年金の2020年度第1四半期の運用実績が大きくプラスですがマスコミ各社の報道は……だんまりを決め込むテレビメディア
水瀬ケンイチ
公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法)が、2020年度第1四半期の年金積立金の運用状況報告を公開しました。
年金積立金管理運用独立行政法人のWebサイトです。GPIFの2020年度の運用状況を掲載しています。
◆2020年度第1四半期(2020年4月~6月)
収益率: +8.30%
収益額: +12兆4,868億円
運用資産額: 162兆926億円
◆市場運用開始以降(2001年度~2020年度第1四半期)
収益率: +2.97%(年率)
収益額: +70兆245億円(累積)
簡単にいえば、2020年度第1四半期は絶好調で収益率は+8.30%、収益額は+12兆円と想定を上回る好調さでした。市場運用開始以降からの累積収益額は+70兆円もあり、収益率も年率+2.97%と好調に推移しているというのが全体像です。
収益がマイナス時には張り切って「年金叩き」を行うマスコミ各社、収益がプラスだった今期の対応はどうでしょうか。調べてみました。
Googleニュースで各メディアのネット報道内容をチェックします。チェック項目は過去のブログ記事と同様、(1)収益額、(2)収益率、(3)運用開始からの累計実績、とします。
公的年金の運用実績(2020年度第1四半期)に対するマスコミ各社のネット報道状況
収益額 | 収益率 | 累計実績 | 備考 | |
日本経済新聞 | ○ | ○ | × | |
ロイター | ○ | ○ | × | |
ブルームバーグ | ○ | ○ | × | |
朝日新聞 | ○ | ○ | × | |
毎日新聞 | ○ | ○ | ○ | |
読売新聞 | ○ | ○ | × | |
産経新聞 | ○ | × | × | 収益額のみで収益率なしのため読者は評価不能 |
共同通信 | ○ | × | × | 収益額のみで収益率なしのため読者は評価不能 |
時事通信 | ○ | ○ | ○ | |
NHK | ○ | ○ | ○ | |
日本テレビ | - | - | - | 報道なし |
TBS | ○ | × | × | 収益額のみで収益率なしのため読者は評価不能 |
フジテレビ | - | - | - | 報道なし |
テレビ朝日 | - | - | - | 報道なし |
テレビ東京 | - | - | - | 報道なし |
まず、テレビメディアは(NHKを除き)報道自体がなかったり、収益額のみしか掲載されておらず、報道内容がお粗末でした。
日本テレビ、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京では報道自体がありませんでした。ちなみに、赤字だった前期は「年金で8兆円の損失」と損失金額だけをとらえてセンセーショナルに報道していました。
TBS、共同通信、産経新聞は収益額のみの記載しかなく収益率や運用総額の記載がないため、読者は良さ加減、悪さ加減を評価不能です。
過去に収益率がわずか数%のマイナスであったにもかかわらず、「年金で●●兆円の損失!」と金額の大きさのみを前面に出して騒ぎ立てた時と同じ構図です。お粗末な不適切報道だと私は思います。
投資の話ではありませんが、現在、新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が毎日何人増えた減ったと騒いでいますが、「感染者数」だけでなく「感染率」「検査数の合計数」もあわせて報道しなければ、どの程度悪いのかがわからないのと同じことです。
始末が悪い事に、不適切報道の共同通信は、全国の地方新聞社など加盟社への記事配信業務を行っています。このお粗末な不適切報道を、そのまま流してしまっている地方紙も確認できました(山形新聞、四国新聞、福井新聞、西日本新聞など)。共同通信の悪影響と言ってよいと思います。
そんななか、毎日新聞、時事通信、NHKは、(1)収益額・(2)収益率・(3)累計実績の3点セットがすべて書かれていました。
いくら損した(儲かった)のか? それは全体に対してどの程度なのか? 過去からの分を全部ひっくるめるとどうなのか? という年金運用実績の全体像が評価できる、読者にとってわかりやすい報道になっていました。
マスコミ各社の報道全体を通しての所感です。
前述のとおり、テレビは収益がマイナスの時には大騒ぎする割に、プラスの時には報道しないという悪しき横並び状態でした。つい3か月前は「年金で大幅赤字!」と大騒ぎしたにもかかわらず……。テレビというメディアの浅はかさが露呈しています。
某テレビ局では過剰演出で出演者に自殺者を出すなど、近年のテレビ局はセンセーショナルなものを求めて悪い方向に流れている気がします。
一方で、公的年金の運用でお粗末な不適切報道を垂れ流すメディアの数は、以前よりも減ってきたと感じました。毎日新聞や時事通信は、昔はお粗末な不適切報道でしたが、近年はだいぶまともな内容に改善されてきたように思います。(まあ時期にもよりますが)
公的年金に関しては、人口増加を前提とした制度設計であることや、未納問題、過去には消えた年金問題、マクロスライド方式未実施等、多くの問題を抱えていることは事実です。
しかし一方で、年金積立金の運用については真面目に行われており、情報公開も進んでいるというのが、運用をウォッチしている私の認識です。これらの公開情報は、個人投資家の資産運用にも大いに参考になるものです。
年金は国民の最大級の関心事のひとつです。マスコミ各社は煽る方向ばかりに張り切るのではなく、良いことも悪いことも含め、きちんと「事実」を伝えてほしいと思います。
P.S
本文にも書いたとおり、ネットで公開されている範囲での情報収集なので、「ニュースサイトには掲載していないが、新聞本紙では掲載している」「○時○分のTVニュースで触れた」等の事情はあるかもしれません。だからといってネットニュースは非掲載でよいということにはなりませんが。
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