公的年金の2020年度第2四半期の運用実績が好調ですがマスコミ各社の報道は……テレビはだんまり、一部新聞もお粗末に
水瀬ケンイチ
公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法)が、2020年度第2四半期の年金積立金の運用状況報告を公開しました。
年金積立金管理運用独立行政法人のWebサイトです。GPIFの2020年度の運用状況を掲載しています。
◆2020年度第2四半期(2020年7月~9月)
収益率: +3.05%
収益額: +4兆9,237億円
運用資産額: 167兆5,358億円
◆市場運用開始以降(2001年度~2020年度第2四半期)
収益率: +3.09%(年率)
収益額: +74兆9,483億円(累積)
簡単にいえば、2020年度第2四半期は好調で収益率は+3.05%、収益額は+4.9兆円という順調な結果でした。市場運用開始以降からの累積収益額は+74.9兆円もあり、収益率も年率+3.09%と好調に推移しているというのが全体像です。
収益がマイナス時には張り切って「年金叩き」を行うマスコミ各社、収益がプラスだった今期の対応はどうでしょうか。調べてみました。
Googleニュースで各メディアのネット報道内容をチェックします。チェック項目は過去のブログ記事と同様、(1)収益額、(2)収益率、(3)運用開始からの累計実績、とします。
公的年金の運用実績(2020年度第2四半期)に対するマスコミ各社のネット報道状況
収益額 | 収益率 | 累計実績 | 備考 | |
日本経済新聞 | ○ | × | × | 収益額のみで収益率なしのため読者は評価不能 |
ロイター | ○ | ○ | × | |
ブルームバーグ | ○ | ○ | × | |
朝日新聞 | ○ | ○ | × | |
毎日新聞 | ○ | ○ | ○ | |
読売新聞 | ○ | ○ | ○ | |
産経新聞 | - | - | - | 報道なし |
共同通信 | ○ | ○ | ○ | |
時事通信 | ○ | ○ | ○ | |
NHK | ○ | ○ | ○ | |
日本テレビ | - | - | - | 報道なし |
TBS | - | - | - | 報道なし |
フジテレビ | - | - | - | 報道なし |
テレビ朝日 | - | - | - | 報道なし |
テレビ東京 | - | - | - | 報道なし |
まず、テレビメディアは(NHKを除き)報道自体がありませんでした。前回(2020年度第1四半期)の時はTBSだけ(1)収益額のみかろうじて報道していましたが、今回はそれすらなくなりました。
赤字だった昨年度2019年度はテレビ各社とも「リーマン・ショックに次ぐ 年金運用8兆円超の損失」などと損失金額だけをとらえてセンセーショナルに報道していました。
新聞メディアでは、前回産経新聞が(1)収益額のみかろうじて報道していましたが、今回はそれすらなくなりました。赤字の時は鬼の首を取ったかのように大騒ぎするのに、黒字の時は報道すらしない。国民に対する不誠実な報道スタンスが透けて見える気がします。
日本経済新聞は、(1)収益額のみの記載しかなく収益率や運用総額の記載がないため、読者は良さ加減、悪さ加減を評価不能です。
前回は(1)収益額と(2)収益率をセットで掲載していて、読者は運用状況を評価することが可能でした。しかし今回は、(1)収益額だけを(それもちょこっとだけ)掲載するという、およそ日本を代表する経済紙とは思えない手抜き記事になっています。
過去に収益率がわずか数%のマイナスであったにもかかわらず、「年金で●兆円の損失!」と金額の大きさのみを前面に出して騒ぎ立てた時と同じ構図です。公的年金は160兆円を超える巨額の運用であり、(1)損失額だけでなく、(2)損益率、そうでなくてもせめて運用総額は併記しないと、その損失額が、重症なのか軽傷なのかすら読者は評価できません。お粗末な不適切報道だと私は思います。
投資の話ではありませんが、現在、新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が毎日何人増えた減ったと騒いでいますが、「感染者数」だけでなく「感染率」「検査数の合計数」もあわせて報道しなければ、どの程度悪いのかがわからないのと同じことです。
一方、共同通信は、前回まで(1)収益額だけのお粗末な不適切報道を続けていたのですが、今回から(1)収益額、(2)収益率、(3)累計実績のすべての要素を掲載する満点報道に改善されました。
共同通信は全国の地方新聞社など加盟社への記事配信業務を行っているため、いくつかの地方紙でも満点報道がされるようになり(中日新聞、西日本新聞、沖縄タイムスなど)、良い傾向だと思いました。続けてほしいと思います。
共同通信以外にも、毎日新聞、読売新聞、時事通信、NHKは、(1)収益額、(2)収益率、(3)累計実績の3点セットがすべて書かれていました。
いくら損した(儲かった)のか? それは全体に対してどの程度なのか? 過去からの分を全部ひっくるめるとどうなのか? という年金運用実績の全体像が評価できる、読者にとってわかりやすい報道になっていました。
残りのロイター、ブルームバーグ、朝日新聞は(1)収益額、(2)収益率がセットで掲載されており、読者は直近四半期の運用状況の良さ・悪さを評価できる報道になっていました。最低限、こうなっていないといけません。
マスコミ各社の報道全体を通しての所感です。
前述のとおり、テレビは収益がマイナスの時には大騒ぎする割に、プラスの時には報道しないという悪しき横並び状態でした。つい半年前は「年金で大幅赤字!」と大騒ぎしたにもかかわらず……。テレビというメディアの浅はかさが露呈しています。
某テレビ局では過剰演出で出演者に自殺者を出すなど、近年のテレビ局はセンセーショナルなものを求めて悪い方向に流れている気がします。
新聞メディアでも掲載がなくなったり、小さくなったりしており、報道内容が劣化しています。公的年金は国民の一大関心事であるのは論をまたないと思うのですが、なぜ年金積立金の運用が好調であるというグッドニュースを軽視するのか。テレビ同様、バッドニュース待ちなのか。
一方で、改善も見られました。今回、共同通信がまともな報道内容に改善されました。毎日新聞や時事通信も昔はお粗末な不適切報道でしたが、近年はだいぶまともな内容に改善されてきたように思います。(これも時期によりますが)
公的年金に対する各メディアのスタンスが二極化してきているように見えます。
公的年金の運用実績というひとつの切り口ではありますが、日頃から国民に正しい情報を届けようとしているのか、ネガティブ報道だけ大々的にやろうとしているのか、メディアの報道スタンスを垣間見ることができます。
公的年金に関しては、人口増加を前提とした制度設計であることや、未納問題、過去には消えた年金問題、マクロスライド方式未実施等、多くの問題を抱えていることは事実です。
しかし一方で、年金積立金の運用については真面目に行われており、情報公開も進んでいるというのが、運用をウォッチしている私の認識です。これらの公開情報は、個人投資家の資産運用にも大いに参考になるものです。
年金は国民の最大級の関心事のひとつです。マスコミ各社は煽る方向ばかりに張り切るのではなく、良いことも悪いことも含め、きちんと「事実」を伝えてほしいと思います。
P.S
本文にも書いたとおり、ネットで公開されている範囲での情報収集なので、「ニュースサイトには掲載していないが、新聞本紙では掲載している」「○時○分のTVニュースで触れた」等の事情はあるかもしれません。だからといってネットニュースは非掲載でよいという理由にはなりませんが。
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