「航路を守れ バンガードとインデックス革命の物語」(ジョン・C・ボーグル著)はもはや投資本というより「良心」を集めた人生訓!

水瀬ケンイチ

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航路を守れ バンガードとインデックス革命の物語」(ジョン・C・ボーグル著、石塚順子翻訳)を読みました。

本書は世界で初めて個人投資家向けのインデックスファンドを発売した米国バンガード・グループの創設者で「インデックス投資の父」といわれるジョン・C・ボーグル氏の最後の著書です。カテゴリとしては投資本になるのかもしれませんが、私は投資本というよりも米国中の「良心」が集まった人生訓だと思いました。

全480ページの大作ですが、ボーグル氏の遺作となってしまった「STAY THE COURSE」の日本語訳版の出版ということもあり(関連記事)、入手してすぐにガッツリ読み込みました。

構成は4部構成。第1部「バンガードの物語」はバンガードの歴史について、第2部「バンガードのファンド」はバンガードの具体的なファンドのあらましについて、第3部「投資運用の将来」は運用業界の課題や将来展望について、第4部「思い出」はちょっと変わった形式で綴られるボーグル氏の人生回顧録となっていました。

第1部「バンガードの物語」は、市場平均に連動する投資信託(インデックスファンド)という当時の米国では「ボーグルの愚行」と揶揄された金融商品をビジネスベースで創り出すまでの苦労が、これでもかというくらい詳しく書かれていました。会社立ち上げ、SEC(米国証券取引委員会)との折衝、ライバル会社との競争などについて、人の実名や社名もあげて赤裸々に書かれています。

第2部「バンガードのファンド」は、バンガードの代名詞であるインデックスファンドだけでなく、ウェリントン・ファンド、ウィンザー・ファンド、プライムキャップ・ファンドなど、バンガードの主要ファンドの誕生秘話が明かされていました。

このあたりのファンド銘柄については、日本からは投資することができず、バンガードマニアの私でも名前を知っているくらいです(はるか昔、マネックス証券で取り扱っていたウェルズリー・インカムファンドの名前が少し出てくるあたりで、相互リンク古参ブロガーのNightWalkerさんがニヤリとするくらいでしょうか)。意外に思うかもしれませんが、バンガードはインデックスファンドだけでなく、様々なバランスファンドやアクティブファンドも運用してきたことがわかります。

革新的な仕組みを採り入れながらも、当時は「ボーグルの愚行」と罵られ様々な軋轢があった。それを乗り越え、会社と預かり資産を大きくしながら運用コストを何十回も引き下げ投資家に還元し、現在の超・低コストなインデックスファンドやETFができあがってきたという歴史が語られています。

単に「スケールメリットを活かした」という言葉では言い表せないくらいのトライ&エラーのくり返しには、本当に頭が下がる思いがするとしか言いようがありません。そのおかげで、いま日本人の私も「バンガード・トータル・ワールド・ストックETF」(VT)などバンガードの低コストな商品に投資して、資産形成ができているのですから。

第3部「投資運用の将来」はインデックスファンドの投資家に限らず、すべての個人投資家、機関投資家の方々に読んでいただきたい内容です。特に、インデックスファンドの成長によって、株式市場の株主に占めるインデックスファンド運用会社の割合が大きくなってきたことによる弊害や懸念について、ウォールストリートや学術界からの批判を正面から受け止め、詳しい考察と提言がなされています。

過去のファンド業界の大きな失敗、法制度の問題点、主要な対案のばかばかしさ、ファンドのミューチュアル化、金融機関の受託者責任(フィデューシャリー・デューティー)、投資家の利益と国益の双方に資する政策などについて言及し、抽象的な統計や事例、大雑把な一般論ではなく、金融機関が投資家や国民、社会の最善の利益になる判断を行うべきと直言しています。

ボーグル氏はファンド業界の人間であったにもかかわらず、投資家の利益に愚直なまでにこだわって提言してくれています。投資家の利益を軽視し、自社の利益を優先させる強欲な米国金融業界にあって、驚くべき質素、倹約、他人への奉仕の心です。

翻って、私たち個人投資家に対してはあれこれ求めてはいません。しかし、これは、ボーグル氏から私たち個人投資家にも投げかけられた最後の宿題なのだと思います。金融機関だけでなく、個人投資家も社会の最善の利益になる方法はないのか、考える必要があるのだと思いました。

第4部「思い出」はボーグル氏の回顧録です。彼の個性、知性、社会貢献性の一端を見ることができます。前述のようにちょっと変わった形式で綴られていますが、どういうものか、ぜひ読んでいただきたいと思います。

2016年に私が米国バンガード社を訪問した時(該当記事)、同行したかたが思わずつぶやいた「米国中の良心がここに集まっている」という言葉を思い出しながら夢中で読みました。こういう人に私はなりたい。

第4部に限らず本書を通して、ボーグル氏のあたたかい人間性が垣間見えて、投資本を読んでいるはずなのに、(名前を出すのが適切かわかりませんが)まるで私の人生におけるバイブルのひとつである「道は開ける」(デール・カーネギー著)を再読しているかのようなあったかい不思議な気持ちになりました。専門性と物語性を両立したすばらしい翻訳の影響かもしれません。

ボリューム的にも内容的にも初心者向けではないかもしれませんが、本書をおすすめしたいのは、インデックス投資家に限らないすべての投資家さんです。1/29には電子書籍のKindle版も出るようです。ぜひ読んでみてください。




P.S
にわかには信じられませんが、本書の奥付にはなんと私の名前もクレジットされています。奇跡的な出来事が重なりこうなったのですが、それはまた別のお話。
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Posted by水瀬ケンイチ